電力の計算は電流と電圧の積で求めることができます。
しかし、交流の電気は直流とは違い、常に大きさや向きが変化しています。
常に大きさや向きが変化しているものを、どのように電力として表すのか不思議に思いませんか?
今回は交流の電力の考え方や計算方法について解説をしていきます。
交流電力の種類について
交流電力の計算方法を理解するためには交流電力の種類を知る必要があります。
交流電力は大きさや向きが常に変化しており、複雑なことから2つの表し方をします。
瞬時電力
周期的に変化している交流のある瞬間の電力を表すものです。
ある瞬間の電圧×電流を計算したものが瞬間電力となります。
平均電力
ある期間における電力の平均値です。
言い換えると、ある期間内の瞬間電力の平均値ということになります。
基本的に交流回路の電力は平均電力で表すことになります。
平均なので期間内の瞬時電力を合計し、期間で割ると平均電力を求めることができます。
交流回路では上記の2種類の電力を使い分けることで、複雑な交流電力を表しています。
しかし、これらは回路に接続している抵抗の種類によって求め方が変わってきます。
今度は回路に接続している抵抗の種類ごとに、どのように電力が変わってくるのか注目してみます。
抵抗のみの電力
最初は下の図の回路のような、抵抗(R)のみが接続された回路の電力です。
この時の交流電力を求めるには、平均電力を求めればいいのですが、そうなると初めに瞬時電力について考える必要があります。
回路のVとIは実行値です。
電流と電圧の瞬時値は最大値(実効値×√2)×sinωtとなるため、上記の回路のような値になります。
瞬時電力は瞬時電圧×瞬時電流で求めることができるため、計算をしてみると下のようになります。
$$p=vi=\sqrt{2}V\sin{ωt}×\sqrt{2}I\sin{ωt}$$
$$ =2VI\sin^2{ωt} [W] $$
ここでcos2A=1ー2sin²Aの公式を使用すると、さらに下のように式を変形できます。
$$2\sin^2{A}=1-\cos{2A}$$
$$ p=2VI\sin^2{ωt} =VI(1-\cos{2ωt})$$
$$ =VI-VI\cos{2ωt} [W]・・・①$$
①の式がこの回路の瞬時電力となります。
そのため①の式について時間的平均を考えると交流電力を求めることができます。
いきなりこの式の平均を考えるとなると難しいイメージがありますが、意外とシンプルです。
時間経過でどのように変わっていくのかを考えます。
式①のVIcos2ωtの部分は時間経過によってコサインカーブ(余弦曲線)を描くことになります。
コサインカーブはVIを最大として電圧の2倍の周期で変化します。
そのためVIcos2ωtの平均は0になります。
一方、式①のVIの部分は実効値のみで時間経過に関係なく大きさが常に一定であることから、平均=VIです。
このことから抵抗のみの回路では、交流電力PはP=VI[W]で計算することができます。
コイルのみの回路の電力
今度は下の図の回路のような、コイル(L)のみが接続された回路の電力です。
この時の交流電力も求める手順は同じです。
瞬時電力を計算して、電力(平均電力)を求めます。
まず、瞬時電流と瞬時電圧ですが瞬時電流の位相は90°遅れたものになります。
これはコイルの自己誘導作用によって電流が妨げられるためです。
そして瞬時電力を計算すると下のようになります。
$$p=vi=\sqrt{2}V\sin{ωt}×\sqrt{2}I\sin({ωt-\frac{π}{2})}$$
加法定理の公式(sin(A+B)=sinAcosB+cosAsinB)を使うと、
$$p=vi$$
$$=\sqrt{2}V\sin{ωt}×\sqrt{2}I(\sin{ωt}\cos{\frac{π}{2}}-\cos{ωt}\sin{\frac{π}{2}})$$
$$=-2VI\sin{ωt}\cos{ωt}$$
ここで2倍角の公式(sin2A=2sinAcosA)を使うと最終的に瞬時電力は下のようになります。
$$p=vi=-VI\sin{2ωt} [W] $$
この瞬時電力の平均を考えれば、この回路の電力を求めることができます。
上記の式は時間経過によって周期的にサインカーブ(正弦曲線)になることから平均は0になります。
つまり、この回路で消費される交流の電力は0[W]ということを意味します。
ん?0[W]ってどうゆうことだ?と思うかも知れませんがこれには理由があります。
電圧と電流が常に変化している交流では、コイルの磁束が変化します。
コイルには磁束が変化すると起電力が発生する性質があります。
電源からエネルギーをもらう、磁束の変化で逆向きの起電力が発生し、エネルギーを電源に送り返すというキャッチボールをしているイメージです。
そのためエネルギーとして消費されないため、コイルのみの回路では交流電力が0[W]になります。
このように、接続している抵抗の種類によって交流電力は大きく変わります。
コンデンサのみの回路の電力
次は下の図の回路のような、コンデンサ(C)のみが接続された回路の電力です。
この場合も交流電力を求める手順は同じです。
まず、瞬時電流と瞬時電圧ですが瞬時電流の位相は90°進んだものになります。
これはコンデンサの電荷を蓄える性質により、電源とコンデンサが同電位になると電流が流れなくなり、位相がズレてしまうからです。
そして瞬時電力を計算すると下のようになります。
$$p=vi$$
$$=\sqrt{2}V\sin{ωt}×\sqrt{2}I\sin({ωt+\frac{π}{2})} [W]$$
三角関数の公式(sin(A+π/2)=cosA)を使うと、
$$p=vi=\sqrt{2}V\sin{ωt}×\sqrt{2}I\cos{ωt}$$
$$=2VI\sin{ωt}\cos{ωt} [W]$$
また2倍角の公式(sin2A=2sinAcosA)を使うと、最終的に瞬時電力は下のようになります。
$$p=vi=VI\sin{2ωt} [W] $$
先程と同じように、この時の瞬時電力の平均を考えれば、この回路の電力を求めることができます。
上記の式は実効値VとIにsinが付いていることから、時間経過によってサインカーブ(正弦曲線)になり、平均は0になります。
つまり、コンデンサのみが接続された回路も交流電力は0[W]であり、エネルギーが消費されないということを意味します。
なぜコンデンサも交流電力が0[W]になるのかというと、コンデンサには電荷を蓄える性質があるためです。
交流電源は常に大きさが変化しており、電源電圧が高い時は充電、低い時には放電をすることになります。
コイルの時と同じように電源とエネルギーのキャッチボールをすることになり、消費されることがありません。
以上のことから、交流電力は電圧の位相よりも電流の位相が90°遅れる、進む場合は0[W]になることを覚えておきましょう。
まとめ
・交流電力には瞬時電力、平均電力がある
・抵抗(R)のみが接続されている回路は、P=VI[W]で求められる
・コイルのみが接続されている回路は、交流電力が0になる
・コンデンサのみが接続されている回路は、交流電力が0になる
以上、今回は交流電力の求め方と考え方についての解説でした。
交流電力は複雑なイメージがあり、拒絶反応が出そうになりますが、私たちの生活にも関わっている重要な知識です。
また、今回記載していたコイルの性質とコンデンサの性質も電気業界では基本的な知識です。
以下の記事ではコイルとコンデンサの性質についても詳しく紹介していますので、併せて是非読んでみてください。
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