三相交流回路の電力はP=3Vp×Ip×cosθで計算することができます。
しかし参考書を読むと公式の説明はされているものの、分かりにくかったり、「難しくて結局理解できなかった」と感じることが多いです。
そこで今回の記事では、三相交流電力がなぜ上記のような公式になるのか基本的な部分から解説していきます。
三相交流電力とは?
交流の電気には1個の電源のみを使用した単相交流と3個の電源を組み合わせた三相交流という2つの種類があります。
三相交流電力とは、文字通り三相交流を使用している時の回路に発生する電力のことです。
交流の電力は常に大きさが変化していることから、ある瞬間の電力(瞬時電力)を平均化したもの(平均電力)を電力として扱います。
また、交流電力は常に大きさが変化していることから以下の3種類の電力があります。
・皮相電力:電源から供給される電力
・有効電力:電源から供給された電力のうち、実際に負荷で消費されている電力
・無効電力:電源から供給される電力のうち、消費されずに負荷と電源を行き来している電力
以上の関係から有効電力と無効電力を合成すると皮相電力になるという関係があります。
各電力の詳しい関係性や無効電力の発生原因などは下記の記事で解説していますので、気になる方は参考にしてください。
三相交流電力の計算方法
三相交流電力は下記の式で求めることができます。
・皮相電力:Ps=3Vp×Ip=√3×VL×IL[V・A]
・有効電力:P=3Vp×Ip×cosθ=√3×VL×IL×cosθ[W]
・無効電力:Pq=3Vp×Ip×sinθ=√3×VL×IL×sinθ[var]
Vp:相電圧 Ip:相電流 VL:線間電圧 IL:線電流
三相交流電力の計算式はY結線やΔ結線などの結線方法に関係なく同じ式となります。
なぜこのような式になり同じ計算式となるのか一つずつ解説します。
Y結線の三相交流電力の計算
まずはY結線の時の三相交流電力はどのように計算するのか見ていきましょう。
例えば以下のようなY結線で接続された平行三相交流回路があったとします。
平行三相交流回路では電圧と電流は各相同じ大きさとなり120°ずつ位相差が発生します。
電圧と電流の位相差は接続する負荷によって変化するため、相電圧と相電流の位相差をφとします。
交流電力は常に大きさが変化していることから、瞬時電力を平均化したものとなります。
そのため三相交流電力Pa~Pcは瞬時電力を計算し、平均を出せば求めることができます。
各相に発生する瞬時電力pa~pcの計算式は下記のようになります。
$$a相の瞬時電力$$
$$pa=va×ia$$
$$=\sqrt{2}va\sin{ωt}×\sqrt{2}ia\sin{(ωt-φ)}$$
$$=2vaia\sin{ωt}\sin{(ωt-φ)} [W]$$
$$b相の瞬時電力$$
$$pb=vb×ib$$
$$=\sqrt{2}vb\sin{(ωt-120°)}×\sqrt{2}ib\sin{(ωt-120°-φ)}$$
$$=2vbib\sin{(ωt-120°)}\sin{(ωt-120°-φ)} [W]$$
$$c相の瞬時電力$$
$$pc=vc×ic$$
$$=\sqrt{2}vc\sin{(ωt-240°)}×\sqrt{2}ic\sin{(ωt-240°-φ)}$$
$$=2vcic\sin{(ωt-240°)}\sin{(ωt-240°-φ)} [W]$$
瞬時電力pは相電圧の瞬時電圧v×相電流の瞬時電流iで計算することができます。
Y結線の負荷で消費される電力を知りたいので、相電圧の瞬時電圧vと相電流の瞬時電流iで計算します。
三角関数の積和の公式sinAsinB=1/2{cos(A-B)+cos(A+B)}の式を使うと、下記のように簡潔にすることができます。
$$a相の瞬時電力$$
$$pa=2vaia\sin{ωt}\sin{(ωt-φ)}$$
$$=2vaia×\frac{1}{2}\cos{(ωt-ωt+φ)}+\frac{1}{2}\cos{(ωt+ωt-φ)}$$
$$=vaiacosφ+vaia\cos{(2ωt-φ)} [W]・・・①$$
$$b相の瞬時電力$$
$$pb=2vbib\sin{(ωt-120°)}\sin{(ωt-120°-φ)}$$
$$=2vbib×\frac{1}{2}\cos{(ωt-120°-ωt+120°+φ)}$$
$$+\frac{1}{2}\cos{(ωt-120°+ωt-120°-φ)}$$
$$=vbibcosφ+vbib\cos{(2ωt-240°-φ)} ・・・①[W]$$
$$c相の瞬時電力$$
$$pc=2vcic\sin{(ωt-240°)}\sin{(ωt-240°-φ)}$$
$$=2vcic×\frac{1}{2}\cos{(ωt-240°-ωt+240°+φ)}$$
$$+\frac{1}{2}\cos{(ωt-240°+ωt-240°-φ)}$$
$$=vciccosφ+vcic\cos{(2ωt-480°-φ)} ・・・①[W]$$
以上が各相に発生する瞬時電力となります。
①の式が各相の瞬時電力であるため、この式の時間経過による平均を考えれば交流電力Pa~Pcを求めることができます。
試しにa相の瞬時電力paの時間経過による平均を考えてみましょう。
最初のvaiacosφの部分については時間tが式に含まれていないため変化しません。
後ろの式のvaiacos(ωtーφ)については時間tが変化するとωとともに変化します。
ωとは角周波数のことで、時間あたりにどれくらい位相が変化するかを表すものです。
ωがあることから、時間経過とともにコサインカーブを描くことになります。
コサインカーブは波であることから平均は0です。
このことからa相の瞬時電力paの平均はvaiacosφとなり、交流電力Paはこの式で計算することができます。
a相を代表して説明しましたが、残りのb相とc相についても同じ考え方で平均を出すと同じ結果になります。
回路全体の消費される電力は各相の消費される電力を全て合計すると求められるので、三相交流電力Pの式は以下のようになります。
$$P=Pa+Pb+Pc$$
$$=VpIp\cos{φ}+VpIp\cos{φ}+VpIp\cos{φ}$$
$$=3VpIp\cos{φ}[W]$$
また、Y結線の線間電圧VLは相電圧Vpの√3倍になり、線電流と相電流は同じになることから、以下の式で表せます。
Y結線ではVp=VL/√3となる
$$P=3VpIp\cos{φ}=3×\frac{Vl}{\sqrt{3}}×\cos{φ}$$
$$=\sqrt{3}VlIl\cos{φ}[W]$$
以上のことから始めに説明した式で三相交流電力を計算できる理由となります。
線間電圧が相電圧の√3倍になる理由は下記の記事で解説していますので、気になる方は参考にしてください。
上記の式はcosθがあることから、有効電力を求めていることになります。
単相交流電力の時と同じように、cosθを除けば皮相電力、cosθをsinθに変えれば無効電力を計算することができます。
Δ結線の三相交流電力の計算
今度はΔ結線の時の三相交流電力はどのように計算するのか見ていきます。
以下のようなΔ結線で接続された平行三相交流回路があったとします。
先程説明したY結線の時と電圧と電流は変わらず、Δ結線でも交流電力を求める手順は同じです。
三相交流電力Pa~Pcは瞬時電力の時間経過における平均を考えれば求めることができます。
そうすると、先程のY結線の時と同じく下記の式になります。
$$P=Pa+Pb+Pc$$
$$=VpIp\cos{φ}+VpIp\cos{φ}+VpIp\cos{φ}$$
$$=3VpIp\cos{φ}[W]$$
Δ結線では線間電圧と相電圧は同じになり、線電流は相電流の√3倍になる特徴があります。
この特徴を踏まえると上記の計算式を下記のように整理することができます。
Δ結線ではIp=IL/√3となる
$$P=3VpIp\cos{φ}=3×Vl×\frac{Il}{\sqrt{3}}×\cos{φ}$$
$$=\sqrt{3}VlIl\cos{φ}[W]$$
このことから、Y結線とΔ結線では相電圧と相電流の特徴に違いがあるものの、結果的には同じ計算式で三相交流電力を計算できることがわかります。
三相交流電力の力率の計算方法
三相交流電力の力率は下記の式で計算することができます。
$$力率=\frac{有効電力}{皮相電力}×100 [%]$$
単相交流電力の時と同じ計算方法です。
力率は供給される電力のうち、実際にどれ程電力が消費されているのかを表すものなので、このような計算式になっています。
三相交流電力の測定方法
三相交流電力の測定には代表的なものに2電力計法という測定方法があります。
2つの電力計で測定した電力を合計すると3相分の電力になります。
例えば以下のような電力計を2個接続した三相交流回路があったとします。
相電圧と相電流、線間電圧をベクトル図にすると以下のようになります。
この時W1にはIaの線電流が流れ、Vabの線間電圧が発生します。
W2にはIcの線電流が流れ、W1とは逆向き(電圧の向きに対して反対)に接続をすることになるため、-Vbcの線間電圧がかかります。
W1の電力をP1、W2の電力をP2とすると、電力P1とP2の関係は下記の計算式になります。
$$P1=|Vab|×|Ia|×\cos{(30°+φ)}$$
$$=VlIl\cos{(30°+φ)}[W]$$
$$P2=|-Vbc|×|Ic|×\cos{(30°-φ)}$$
$$=VlIl\cos{(30°-φ)}[W]$$
$$P1+P2$$
$$=VlIl(\cos{(30°+φ)}+\cos{(30°-φ)})$$
$$=\sqrt{3}VlIl\cos{φ}[W]$$
このことから、P1とP2を合計すると三相分の電力になっていることが分かるため、2個の電力計で測定できることになります。
2個の電力計で済むため、3個使用する時よりもコストを抑えられることからよく使用されます。
まとめ
・三相交流電力は結線方法に関係なく以下の式で計算できる
$$皮相電力:\sqrt{3}VlIl[V・A]$$
$$有効電力:\sqrt{3}VlIl\cos{φ}[W]$$
$$無効電力:\sqrt{3}VlIl\sin{φ}[var]$$
・三相交流電力の力率
$$力率=\frac{有効電力}{皮相電力}×100 [%]$$
・三相交流電力は2電力計法(2個の電力計)で測定できる
以上、今回は三相交流電力の計算と測定方法についての解説でした。
三相交流電力の計算は電気回路の計算の中でも重要な計算です。
また、以下の記事では単相交流電力の皮相電力と有効電力、力率について解説していますので併せて是非読んでみてください。
この記事を読むと、三相交流電力の計算方法と測定方法について理解することができます。