変流器と零相変流器は動作原理が同じですが、監視方法や使用目的が違いますよ!
電力システムの安全性を確保する上で不可欠な装置として、変流器(CT)がありますが、特に地絡を検出する際には零相変流器(ZCT)が重要な役割を担います。
そのため、これらの装置の機能や特性、および互いの違いを正確に理解することは、とても大切です。
本記事では、変流器と零相変流器の基本から、それぞれの特徴、それらの重要性について、わかりやすく解説します。
目次
変流器(CT)とは
変流器(Current Transformer, ※CT)は、高電圧の電流を測定可能な低電流に変換するための装置です。
CTは電流の測定や保護リレーによる監視を行うために電気設備や送電線系統などに設置されています。
そもそも、CTによる電流の変換はなぜ必要なのでしょうか?その理由は以下のとおりです。
- 大きな電流をそのまま計測することは難しく、危険であるため
- 保護リレーや制御装置などは低い電流までしか耐えることができない設計になっている
送電線の電流などは常時数百Aの電流が流れています。その電流をそのまま監視装置などに取り込むことは危険です。
また、大きい電流が流れるほど、電線やケーブルは太くしないといけないのですが、制御装置や保護リレーにはそのような太い電線はありません。
なぜなら制御装置などは多くの配線を使用するため、電線を太くするというのは、構造上とても現実的では無いためです。
そのため、もしもそのまま大きな電流を流すと電線が溶けてしまいます。
以上の理由から、実際に流れている電流を制御装置などに直接流すのではなく、CTを間に入れて低い電流に変換をさせてから装置に取込ませる必要があります。
変流器の原理
変流器は変圧器と同じく巻線(コイル)です。
1つの鉄心に導線を巻いており、電源側の巻線は一次側、電流を変換させる方の巻線を二次側といいます。
一次側に電流が流れると、電流により鉄心の中に磁束が発生し、二次側の巻線を通過します。
磁束が二次側巻線を通過すると、巻いた数に応じた電流が流れます。(ファラデーの法則)
ファラデーの法則の詳細については、以下の記事で解説していますので、気になる方は参考にしてください。
このように、磁束の変化によってコイルに電流が流れる性質を利用し、二次側の巻数を調整することで、電流の変換をしています。
変流器のCT比(変流比)とは
CT比、または変流比は、変流器がどれだけ電流を小さくできるかを示す比率です。
例えば、CT比が100/5の場合、一次側に100Aの電流が流れると、二次側には5Aの電流が流れます。
この比率は変流器の一次側と二次側の巻数の比率によって変化します。CT比と巻数の関係は以下のとおりです。
$$二次電流=\frac{一次電流}{CT比}$$
$$CT比=\frac{二次側巻数}{一次側巻数}$$
このことから、二次側の巻線に小さい電流を流すためには、基本的に一次巻線よりも二次巻線の巻数を多くする必要があります。
CT比は一次側と二次側の巻数の比で決まるということを覚えておきましょう。
変流器の極性とは
変流器には極性があり、電流を流す方向が決まっています。
極性は電源側をK、負荷側をLと決められており、K→Lへ電流が流れるように接続しなければいけません。
極性は一次側の巻線も二次側の巻線も両方とも同じようにK→Lへ流れるように接続します。
上記のような一次側巻線と二次側巻線が同じ配置になっている構造を減極性といい、日本ではこの接続の仕方が標準となっています。
反対に一次側巻線と二次側巻線の極性が反対になっているものを加極性といいます。
変流器の極性は逆に接続してしまうと、計測数値がマイナス表示になってしまったり、機器によっては表示が出てこなくなったりもします。
保護リレーなどに使用する変流器の場合はリレー不動作の原因にもなりかねないため、接続時によく極性を確認する必要があります。
どうして極性の表示は「K」と「L」を使うの?
Lは「LOAD」の略で、負荷という意味があるそうです。Kについては、色々と所説あります。
変流器の記号について
変流器は複線図上では以下のように表されます。
複線図というのは、回路のつながりを分かりやすくした図面のことです。
この記号を見つけた場合は、その場所に変流器が設置されていることを意味します。
上記の図では、変流器が2個設置されていることがわかります。
この図では、CTを2個しか付けてないけど、3個じゃなくていいの?
CTを使用する目的にもよりますが、基本的にCTは2個だけでも十分であることが多いです。なぜ、2個で十分なのかは下記で解説します!
変流器は2個でいい?それとも3個?
変流器は2個しか設置しないパターンが多いです。
その理由として、変流器は基本的に以下のような目的で設置されることが多いためです。
- 回路の電流値を計測するため
- 短絡電流のような大電流が発生した場合、過電流継電器(リレー)などの保護継電器を動作させるため
上記の目的で変流器を設置する場合は、2個で十分に役割を果たしてくれます。
回路の電流値を計測するための場合
まず、電流値を計測する場合ですが、変流器がA相とC相に設置されている時は、A相とC相に電流が流れると、変流器二次側にCT比に応じた電流が流れ、計測が可能です。
変流器から電流を取込んでいる装置には、CT比で変換された小さな電流が流れていますが、CT比の倍率をかけてあげることで、一次側に実際に流れている電流値が分かるようになります。
では、B相はどうするのか?というと、A相とC相の電流を合成させたものをB相として扱います。
2相の電流を合成をするとB相になる理由は、3相交流の電流ベクトルを見ると分かります。
A相とC相の電流を合成すると図のようになります。この合成してできたベクトルは、普段のB相のベクトルと大きさが同じで位相が180°反対のベクトルです。
普段のB相の電流ベクトルは点線のとおりのため、合成したベクトルは正確にはB相と全く同じとは言えません。
しかし、大きさは同じため、位相は異なるものの電流値の大きさを表示する分には問題ないことからB相として扱えます。
そのため、変流器を2個にする時は、B相の電流も計測(A相とC相の合成)できるように、A相とC相の変流器二次側をそれぞれ接続する必要があります。
ベクトルについては、以下の記事で詳細を解説していますので、気になる方は参考にしてください。
短絡電流のような大電流が発生した場合、保護継電器を動作させるため
短絡というのは相間が何らかの理由で導通してしまい、大電流が流れる現象です。
そのため、短絡電流が発生する時は、必ず2相に大電流が流れます。
この時にどこかの変流器を経由していれば、短絡電流を検知できることになります。
例えば、A相とB相の短絡の場合はA相とB相に短絡電流が流れますが、A相に変流器があるため、検知可能です。
他のパターンのB相とC相、A相とC相の短絡時も必ずどこかの変流器を通過します。
このことから、短絡事故の検知をさせたい場合も、頑張って変流器を3個設置する必要はないということになります。
以上が、変流器を2個にしても問題ない理由です。その他、変流器を2個にすることは、コストが安くなるというメリットもあります。
変流器を3個設置する時はどんな時なの?
例えば、大きさだけでなく位相も保護継電器で監視したい場合などは、2個の方法ではイマイチですね。
零相変流器(ZCT)とは
零相変流器(Zero phase Current Transformer, ※ZCT)は、主に漏電や地絡を検出するために設計された変流器です。
零相変流器は、通常の変流器とは異なり、すべての相の電流を合成したときの零相成分(漏電や異常電流)を検出します。
零相成分というのは、3相交流のバランスが崩れた際に発生する電圧、もしくは電流のことをいいます。これもまた、ベクトルのお話です。
まず、3相交流は基本的に全ての相が同じ大きさで位相が120°ずつズレていることから、全ての相を合計すると、0になります。
これは、電流でも電圧でも同じです。
常時基本的に全体の合計が0になっていますが、地絡などが発生し、異常な電圧や電流が発生すると、3相のベクトルのバランスが崩れ、0にならなくなります。
このバランスが崩れた時に全ての相を合計すると生まれるベクトルが零相成分です。
そのため、この零相成分が発生した時は、普段のバランスが崩れていることを意味するので、何らかの異常が発生していることになります。
零相成分は電流の場合は零相電流、電圧の場合は零相電圧と呼ばれています。
零相変流器は3相交流の電流のバランスが崩れて、零相電流が発生していないかを監視するためのものです。
零相変流器の構造
普通の変流器は1個で1相分の計測をしていますが、零相変流器は3相交流の電流バランスを監視するために、3相分の電流を計測します。
そのため、零相変流器を設置する時には、3本の電線を通過させる必要があります。
零相変流器のCT比(変流比)とは
零相変流器の変流比は、零相電流をどれだけ小さくできるかを示します。
零相変流器の変流比も一次側と二次側の巻数の比率により決まります。
主に地絡や漏電の検出が目的のため、感度と精度が要求され、変流比は通常の変流器と比べて高精度で設計されます。
例えば、普通の変流器は〇〇/5Aといった感じですが、零相変流器は〇〇/1.5mAという感じで精度が高く設計されます。
零相変流器の極性とは
零相変流器にもKとLの極性があります。接続方法は普通の変流器と同じく、Kを電源側、Lを負荷側に接続します。
ZCTには「KT」、「LT」という端子があるものもあります。
KTとLTとは試験用端子のことで、保護継電器の動作試験をする時、ここに試験器を接続し、電流を流しZCTの零相電流を模擬して発生させることができます。
なぜ、普通の変流器には試験用端子がなく、零相変流器にはこの端子が付いているのかというと、零相変流器の二次側は電流がとても小さいからです。
零相変流器の二次側は高精度に保護継電器を動作させるために、数mA単位の小さな電流になっています。
通常の試験器では、電流を流す際にA単位でしか印加できないことが多く、数mA程の小さな電流を印加することが困難です。
そのため、試験時に電流を流す必要がある時には、この試験用端子が必要になってきます。
KTとLTはあくまで試験用端子のため、普段は使用していない端子ですが、零相変流器の設置をする時には「KとL」、「KTとLT」を間違わない様に注意しましょう。
零相変流器の記号について
零相変流器は複線図上では以下のように表されます。
零相変流器の記号は変流器と似ていますが、間違わないように注意しましょう。
以上が零相変流器の主な概要です。頭の中を整理するために、普通の変流器との違いをまとめてみました。
変流比(CT比) | 極性 | 1個で何相分を計測するか | |
変流器(CT) | 例:300A/5A など | K(電源側) L(負荷側) | 1個で1相分 |
零相変流器(ZCT) | 例:200mA/1.5mAなど | K(電源側) L(負荷側) KT、LTは試験用端子 | 1個で3相分 |
変流器と零相変流器には上記の違いがあるため、参考にしてみてください。
零相変流器の「零」は0が崩れた時に発生する、という意味だったんだね!
ゲームなどに出てくる零式とは関係ありません。しかし、零という文字が付いているとかっこいいイメージはありますね。
CT回路の二次側は開放してはいけない
変流器の二次側(CT回路)を開放すると、高電圧が発生し、火花や爆発の危険があるため、絶対に避けるべきです。
開放というのは、回路が接続状態になっていないことを開放といいます。
回路のどこかで接続されていない箇所があると、オームの法則により、高電圧が発生します。
$$電圧=電流×抵抗[V]※オームの法則$$
CT回路は変流器の二次側から電流が流れてくる回路です。
CT回路に抵抗が大きいものがあると、上記の式からわかるとおり、高電圧が発生します。
開放している箇所がある場合、CT回路の両端子間で導通がなくなり、抵抗値が無限大(∞)になります。
そのため、かなり危険であることから、CT回路は開放箇所がないように、必ず閉回路を形成するように接続をするのが基本です。
ちなみに、オームの法則については、以下の記事で詳細を解説していますので、気になる方は参考にしてみてください。
まとめ
・変流器、零相変流器は誘導電流により、変流比に応じて電流値を変換している。
・変流器は電流の大きさを計測するために使われる。
・零相変流器は三相分の電流バランスが地絡や漏電で崩れないか計測をしている。
・変流比(CT比)は一次側と二次側の巻数の比率で決まる。
・変流器と零相変流器には極性(KとL)があり、Kを電源側、Lを負荷側に接続する。
・CT回路は開放箇所があると高電圧が発生するため、開放していはいけない。
本記事では、変流器と零相変流器の基本構造と機能の違いについて解説しました。
特に零相変流器の重要性と、安全な電気システム運用におけるその役割に焦点を当てました。
正しい知識と理解によって、電気設備の安全性と効率性を高めることができます。
零相変流器って何?零式みたいな名前で少しかっこいいけど、普通の変流器とは何が違うんだろう?