交流の電力には有効電力・無効電力・皮相電力の3種類の電力があります。
この3つの電力には三角形の関係性があり、この関係性を理解していると、各電力や力率などを簡単に計算することができます。
今回の記事では、なぜ交流電力には三角形の関係性があるのか、関係性を利用して何を計算できるのかという部分について解説していきます。
目次
有効電力、無効電力、皮相電力の関係性
有効電力・無効電力・皮相電力にはベクトルで表すと、下記のような三角形の関係性があります。
有効電力と無効電力の合計は皮相電力になるという関係です。
なぜこのような関係性が生まれるのか順を追って解説します。
有効電力・無効電力の合計は皮相電力になる
皮相電力というのは電源の理論上(見かけ上)の電力のことです。
電源から送られる電力は全てが負荷で消費される訳ではなく、一部の電力は消費されずに電源と負荷を行き来しているため、皮相電力というものが必要になります。
供給される電力の中で、実際に負荷で消費されている電力が有効電力、消費されていない電力が無効電力です。
無効電力は電圧と電流の位相差が原因で発生してしまいます。
無効電力の発生原因などは下記の記事で解説していますので気になる方は参考にしてください。
【最強のわかりやすさ】無効電力とは?求め方をわかりやすく解説!
そのため、有効電力と無効電力がどのようなものか理解していれば、合計が皮相電力になりそうだなと、イメージすることができます。
なぜ三角形の関係性になるのか
では、なぜ有効電力・無効電力・皮相電力はベクトルで表すと三角形の関係性があるのでしょうか?
これは交流回路の電圧・電流の関係をベクトルで表し、関係性に注目するとわかります。
例えば下の図のような回路があったとします。
この回路の電圧と電流の関係をベクトルで表すと下の図のようになります。
コイルには電流の位相を遅らせる性質があり、電流Iは電圧Vよりも90°遅れた位相になります。
なぜコイルに電流の位相を遅らせる性質があるのかは下記の記事で解説していますので、気になる方は参考にしてみてください。
抵抗には位相に影響を与える性質はないため、電圧VRの位相は電流Iと同位相になります。
VRとVLのベクトルを合成すると、V(回路全体の電圧)のベクトルになります。
このことから、回路全体の電圧Vと電流Iにはφの位相差があることになり、今度は電流Iと電圧Vの関係に注目してみます。
電圧Vのベクトルを基準にすると、電流Iのベクトルは位相差φの分だけ斜めのベクトルとなります。
そのため、電流Iのベクトルを分解すると下の図のような縦と横分の2つのベクトルができます。
電流Iから分解された2つのベクトルは電流Iと三角形になり、電流Iを斜辺として底辺と高さ分に相当します。
そのため分解された2つのベクトルは、高さ=斜辺×sinφ、底辺=斜辺×cosφで求められることから、I×sinφ、I×cosφとなります。
電力は電流×電圧で求められるため、I、I×sinφ、I×cosφにそれぞれ電圧Vをかけると電力になります。
全ての要素に同じ電圧をかけているので、全体としての関係性が変わることはありません。
そうすると下の図のようなベクトルになり、見たことのある三角形が完成します。
これらのことから、有効電力・無効電力の合計が皮相電力になり、三角形の関係性になることがわかります。
有効電力・無効電力・皮相電力の関係を利用した計算
先程説明した三角形の関係性から皮相電力は下記の式で求めることができます。
$$皮相電力Ps=$$
$$\sqrt{(有効電力P)^2+(無効電力Pq)^2} [V・A]$$
三角形の性質を利用した式です。
また、cosφは力率であり、sinφは無効率を意味していますが、これらも三角形の性質を利用して下記の式で求めることができます。
$$\cos{φ}=\sqrt{1-\sin^2{φ}}$$
$$\sin{φ}=\sqrt{1-\cos^2{φ}}$$
これは三角関数のsin²θ+cos²θ=1の性質を利用したものです。
力率と無効率のどちらかがわかっていれば上の式で求めることができます。
このように各電力の関係性を理解していると電力や力率などを簡単に求めることができます。
力率と無効率をさらに簡単に計算する
力率と無効率は下記の式でも求めることができます。
$$力率\cos{φ}=\frac{R}{Z}$$
$$無効率\sin{φ}=\frac{Xc}{Z}※$$
※XcもしくはXL
なぜこのような式で力率と無効率を計算できるのかというと、インピーダンス三角形というものが関係しています。
インピーダンス三角形とは、電圧と電流のベクトルから抵抗(R)・コイル(XL)・コンデンサ(Xc)の関係を導きだしたものです。
なぜこのような関係が生まれるのか解説していきます。
例えば、下の図のような回路があったとします。
この回路の電圧と電流の関係をベクトルで表すと下の図のようになります。
コンデンサには電流の位相を進める性質があり、電流Iは電圧VCよりも90°進んだ位相になります。
なぜコンデンサの電流の位相が進むのかは下記の記事で解説していますので、気になる方は参考にしてみてください。
抵抗には位相に影響を与える性質はないため、電圧VRの位相は電流Iと同位相になります。
VRとVcのベクトルを合成すると、V(回路全体の電圧)のベクトルになります。
オームの法則により、電圧=抵抗×電流の関係があることから、各電圧のベクトルは抵抗×電流で表すことができます。
そうすると各電圧のベクトルには共通して電流Iがあるため、電流Iを消して下の図のような関係に変形できます。
これでインピーダンス三角形が完成し、インピーダンスにはこのような三角形の関係性があることがわかります。
三角形の斜辺はインピーダンスZ、底辺は抵抗R、高さはコンデンサCとなるため、三角関数にあてはめると、先程の式になります。
回路にコイルが接続されている場合はコンデンサと違い、電流の位相が90°遅れることになります。
しかし、コイルの場合でも向きの違う(上向きの)三角形が形成されることになります。
このようにインピーダンス三角形を利用すると電圧と電流がわからなくても、力率と無効率を求めることができます。
まとめ
・有効電力、無効電力、皮相電力には三角形の関係性がある
・皮相電力は下記の式で求められる
$$皮相電力Ps=$$
$$\sqrt{(有効電力P)^2+(無効電力Pq)^2} [V・A]$$
・力率と無効率は下記の式で求められる
$$\cos{φ}=\sqrt{1-\sin^2{φ}}$$
$$\sin{φ}=\sqrt{1-\cos^2{φ}}$$
・力率と無効率はインピーダンス三角形を利用して求めることもできる
$$力率\cos{φ}=\frac{R}{Z}$$
$$無効率\sin{φ}=\frac{Xc}{Z}※$$
※XcもしくはXL
以上、今回は有効電力・無効電力・皮相電力の関係性とそれを利用した計算方法についての解説でした。
各電力の関係性などを理解していると様々な方法で計算ができるようになり便利です。
しかし関係性を知るためには各電力の特徴を理解しておく必要があります。
以下の記事では有効電力・皮相電力がそれぞれどのようなものなのかを解説していますので併せて是非読んでみてください。
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