交流のインピーダンスは複素数として表示することができます。
インピーダンスを複素数で表示すると、回路の計算がとても簡単になります。
今回の記事では、インピーダンスを複素数で表示する方法と、なぜ必要なのかということを解説していきます。
なぜインピーダンスを複素数にするのか
インピーダンスを複素数にする理由は、交流回路の計算が簡単になるためです。
交流は位相(変化するタイミング)によって大きさと向きが変わります。
そのため、電圧や電流を使うオームの法則で割り算やかけ算をする時には位相を無視してそのまま計算をすると全く違う数値になってしまいます。
しかし、複素数であれば数でありながらベクトルでもあることから、位相を考慮した計算をすることができます。
インピーダンスを複素数で表したものを複素インピーダンスといいます。
複素インピーダンスとして表すには抵抗R、インダクタンスL、静電容量Cの要素をそれぞれのどのように複素数で表すのかを知る必要があります。
最初は抵抗の要素ごとに複素数表示の方法を順番に解説していきます。
インダクタンスLの複素数表示
まずは下の図のような交流回路のインダクタンスLを複素数で表示する方法です。
インダクタンスL(コイル)は自己誘導作用によって電流を妨げることになり、電流の位相が電圧よりも90°遅れる性質があります。(誘導リアクタンスXL)
自己誘導作用の詳細については下記の記事で解説していますので、気になる方は参考にしてください。
【最強のわかりやすさ】インダクタとインピーダンスとは?
この時の電圧と電流の関係をベクトルで表すと下のようなベクトルになります。
複素数において、ベクトルに虚数jをかけると、ベクトルは90°反時計回りに回転する作用があります。
なぜ、虚数jをかけるとベクトルが90°回転するのかは下記の記事で解説していますので、参考にしてください。
【5分でわかる】交流の複素数とは?必要な理由をわかりやすく解説
そのため、上記のベクトルは電流よりも電圧の方が90°反時計方向(進み位相)になっているため、電圧Vは電流Iにjをかけた位置関係と言えます。
このことから電圧Vと電流I、インダクタンスLには下記の関係式があります。※XLのLは表示の都合上大きくしています。
$$V=jXLI=jωLI[V]$$
$$\frac{V}{I}=jωL[Ω]$$
上の式より、インダクタンスの抵抗(誘導リアクタンス)は、複素数で表す時はjωLとなります。
ちなみに、上記では電流Iのベクトルを基準として電圧Vにjをかけて解説しましたが、電圧Vを基準として考えても同じことが言えます。
先程のベクトルで電圧Vを基準とすると、電流Iは90°時計回り(遅れた位相)となり、ーjをかけた位置関係になります。
同じように関係を整理すると下記の式のようになります。
$$I=-j\frac{V}{XL}[A]$$
式を抵抗(V/I)を求める形に変形させてあげると、
$$XLI=-jV$$
$$V=jXLI[V]$$
$$\frac{V}{I}=jXL=jωL [Ω]$$
このように同じ式が完成することから、どちらを基準に考えても同じ結果となります。
当サイトでは、電流を基準として解説を進めていきます。
静電容量Cの複素数表示
次は下の図のような静電容量Cを複素数で表示する方法です。
静電容量C(コンデンサ)は電荷を蓄える性質があるため、電流の位相が電圧よりも90°進みます。(容量リアクタンスXc)
コンデンサの電荷を蓄える性質と位相の関係については下記の記事で解説していますので、気になる方は参考にしてください。
【最強のわかりやすさ】容量リアクタンスとは?求め方を解説!
この時の電圧と電流の関係をベクトルで表すと下のようなベクトルになります。
上記のベクトルは電流よりも電圧の方が90°時計回り(遅れた位相)になっているため、電圧Vは電流Iにーjをかけた位置関係と言えます。
このことから電圧Vと電流I、静電容量Cには下記の関係式があります。
$$V=-jXcI=-j\frac{1}{ωC}I[V]$$
$$\frac{V}{I}=-j\frac{1}{ωC}[Ω]$$
上の式より、静電容量Cの抵抗(容量リアクタンス)は、複素数で表す時は-j1/ωCとなります。
抵抗Rの複素数表示
今度は下の図のような抵抗Rを複素数で表示する方法です。
抵抗Rには位相に影響を与える性質は何もありません。
この時の電圧と電流の関係をベクトルで表すと下のようなベクトルになります。電流と電圧は同じ位相となることから、ベクトルが一直線に並びます。
このことから電流と電圧の関係は下記の式のようになります。
$$V=RI[V]$$
$$\frac{V}{I}=R[Ω]$$
上の式より、抵抗Rを複素数で表す時はそのままRになります。ベクトルの位置が同じため虚数jはでてきません。
とてもシンプルです。
インピーダンスZの複素数表示
各要素の複素数表示がわかったため、最後はインピーダンスZの表示方法です。
下の図のような抵抗RとコンデンサCを直列に接続した時のインピーダンスZを複素数で表示してみましょう。
直列に接続されているため電流Iはどこでも同じとなり、抵抗Rの電圧Vrとコンデンサの電圧Vcが発生します。
電流Iを基準として、電圧VrとVcの関係をベクトルで表すと下のようになります。
電流Iと電圧VRは同位相となり、Vcは電流Iよりも90°位相が遅れます。
全体の電圧Vは直列回路のため各電圧の合計となることから、VRとVcを合成したものが全体の電圧Vとなります。
各ベクトルに共通する電流Iを取り除くと、下のようなインピーダンス三角形ができます。
Xcは直交座標でいうと、電流Iにーjをかけた位置関係になることからーjXcとなります。
このことからインピーダンスZのベクトルはRとjXcのベクトルを合成したものとなることから直交座標で下の式のように表せます。
$$Z=R-jXc[Ω]$$
これがインピーダンスZの複素数表示となります。
今回の場合は虚部の符号がーですが、誘導リアクタンスと容量リアクタンスの大小関係によって符号が変わるため注意が必要です。
また、インピーダンスZの実際の大きさについては三角形の性質を利用して下記の式で求めることができます。
$$Z=\sqrt{R^2+(-Xc)^2}[Ω]$$
以上がインピーダンスZの複素数表示の仕方と複素数を利用した計算方法となります。
インピーダンスZの大きさを求める時も誘導リアクタンスと容量リアクタンスの大小関係によって符号が変わるため注意が必要です。
まとめ
・インダクタンスLの複素数表示:jωL
・静電容量Cの複素数表示:-j1/ωC
・抵抗Rの複素数表示:R
・インピーダンスZの複素数表示:R+jωL、R-j1/ωC
以上、今回はインピーダンスの複素数表示の方法と必要性についての記事でした。
複素数を利用することで交流回路の複雑な計算ができるようになるため、複素数を用いた計算は電気回路の基本となります。
また、インピーダンスの直列回路、並列回路の計算も基本となる重要な知識です。
以下の記事では、インピーダンスの基本的な計算方法について解説していますので、併せてぜひ読んでみてください。
コメントを残す