変圧器の基本構造は鉄心に巻線を施したコイルです。電圧を変圧するための設備で、とても重要なものです。
電力を効率的に扱うためには変圧器が欠かせません。
日常生活や産業の中で静かにその役割を果たしている変圧器の技術を深掘りし、どのようにして私たちの周りで貢献しているのかを明らかにします。
この記事では、「変圧器とは何か?」から始まり、その仕組み、基本構造に至るまで、変圧器の全てをわかりやすく解説します。
目次
変圧器とは?
変圧器(トランスフォーマー)は、交流電圧の大きさを変更することができ、家庭用の低電圧から特別高圧の送電線まで、様々な場面で利用されています。
略してトランスとも呼ばれています。
そもそも、どんな時に電圧の大きさを変える必要があり、大きさを変えることで、どの様なメリットがあるのでしょうか?
電圧の大きさを変える必要がある場面は主に以下のとおりです。
- 安全を確保するため
- 効率よく電気を送電したい
- 設備コストのダウン
安全を確保するため
電圧が高い場合、近づいただけで感電してしまうため、感電するリスクが上がります。
家庭のコンセントやブレーカーなどは100Vが基本ですが、もしも66000Vなどの電圧がかかっていると、危なくて近寄ることすら出来ません。
効率よく電気を送電したい
電圧を高くすると、ロスが少なくなり、効率の良い送電が可能になります。
電気というのは、スタート地点から100の電力を送電した場合、ゴールでは90や80などになって送電されます。
ロスがあると、ゴールに100を送電するには120などでスタートする必要があり、その分燃料費などのコストが上がります。
ロスが発生する理由は電線に電流が流れると、電線内部の抵抗により熱が発生してしまうためです。
熱が発生している時は電気エネルギー(電圧×電流)が熱エネルギーに変わっていることを意味し、その分送電した電力をロスさせてしまっている状態です。
この熱エネルギーは電流が大きい程、電線内部の抵抗が大きくなる程、熱も大きくなります。
電流と抵抗のどちらかを小さくできればいいのですが、抵抗は、周囲の環境温度によって少しの変動はありますが、基本的に電線の長さを変えない限りほぼ一定です。
つまり、電力の送電時にロスを削減するには、電流を小さくするのが最善の方法です。
電力を10送電したい場合は1(電圧)×10(電流)よりも、10(電圧)×1(電流)の方が、同じ10の送電時でも電流が小さくロスの削減ができます。
このように、変圧器によって、電力の損失を最小限に抑えながら、遠く離れた場所に電力を供給することが可能になります。
電流により熱が発生する理由はジュールの法則によるものです。熱が発生するメカニズムについては、以下の記事で解説していますので、気になる方は参考にしてください。
損失を減らせるのは分かったけど、変圧器を設置するのにもコストがかかるんじゃない?
もちろん変圧器の設置は購入費用などのコストがかかります。しかし、トータルで検討するとその方が安上がりなんです。
設備コストのダウン
変圧器により送電時の電流を小さくできると、他にも様々な恩恵があります。
- 電線を細くすることができる
- 送電鉄塔の耐久性や耐震性の強化にかかるコストの削減
- 遮断器などの設備容量ダウン
電線は銅やアルミの塊です。太くすればその分コストと重量が増えます。
特に送電線の場合は、山地を超えて数十km以上配置することもよくあるため、かなりの重量になります。
電線を支える鉄塔もその重量を支えつつ、雪による重み、風や地震の影響などに対応できる耐久力がないといけません。
放射状に張り巡らされた配電線や電柱なども同じです。
また、電流が大きい場合は遮断器の大きさもその電流に見合った大きなものが必要になります。
これらにかかるコストにプラスして、常時毎秒発生する電力損失を加味すると変圧器の設置にも費用はかかるものの、長期的に見れば変圧器を設置した方が経済的と言えます。
なるほど、変圧器最強だね!
変圧器は最強です。
以上のことから、変圧器はとても重要な設備であり、電力の送電には必要不可欠な存在です。
変圧器の仕組みについて
変圧器の基本的な仕組みはコイルの(鉄心を巻線で巻いたもの)電磁誘導によるものです。
交流電源が変圧器の一次巻線に接続されると、巻線を流れる電流によって磁束が発生します。
この磁束が鉄心を通じて二次巻線にも伝わり、二次巻線ではその磁束の変化を打ち消そうと誘導電圧が発生します。(レンツの法則)
このとき、一次側と二次側の巻線の巻数の比率によって出力される電圧の大きさが決まります。(ファラデーの法則)
一次側と二次側の巻数の比率を調整することにより、二次側の電圧を高くしたり、低くしたりすることができます。
電磁誘導のメカニズムについては、以下の記事で解説をしていますので、気になる方は参考にしてください。
変圧器の構造について
変圧器にも様々な種類がありますが、変圧器の中でも王道の油入変圧器を例に、基本的な構造を見ていきましょう。
基本的な構造と各部位の役割は以下のとおりです。
鉄心
鉄心は、磁束を一次側から二次側の巻き線へ通過させる役割があります。
高い透磁率を持つ材料で作られ、一次巻線と二次巻線の間に配置されています。
巻線
巻線は、銅またはアルミニウムで作られ、鉄心に巻き付けることで、電磁誘導を利用した電力変換をしています。
一次巻線と二次巻線の巻数比により、変圧比が決定されます。
絶縁油
鉄心・巻き線の周りを満たしている油です。
油にも様々な種類がありますが、よく使われる油としては鉱物油、植物油が一般的です。
油には、電気を通さない性質(絶縁性)があるため、鉄心と巻線を油で満たすことで、外箱へ地絡しないようにしています。
また、絶縁油には変圧器の巻き線を冷やす役割もあります。
地絡については、以下の記事で解説しています。
コンサベータ
コンサベータは、変圧器内の油量の変動を補うための部品です。油は温度変化によって膨張したり、収縮する性質があります。(熱い時は膨張、冷えると収縮)
もしもコンサベータがない場合、油が膨張して変圧器内部の圧力が高くなったり、収縮により絶縁が出来なくなったりします。
コンサベータがあることで、変圧器内部の圧力を一定に保つことができます。
ラジエータ
ラジエータ(放熱器)は、変圧器の絶縁油を冷却するために使用されます。
常に巻き線を満たしている絶縁油は時間が経つと、巻き線により温度が上昇します。
絶縁油の温度が上昇してしまうと鉄心や巻き線を冷却できないため、絶縁油の温度を下げる必要があります。
ラジエータと言えば、板のようなものが沢山付いているのが特徴的ですが、この形状が絶縁油を効率的に冷やすことを可能にしています。
ラジエータの薄い板状の部分には、一枚一枚全ての中に絶縁油が入っています。
薄い板に絶縁油を入れることにより、外気と触れる表面積が多くなり、冷却できる絶縁油の量が増えます。
上記の図を見てわかりますが、ラジエータが付いている方が冷却できる絶縁油の量が圧倒的に多いです。
熱を効率的に外部に放出し、変圧器の温度を適切な範囲内に保つ重要な部品です。
ブリーザ
ブリーザは、変圧器内に湿気が入るのを防ぐための装置です。
湿気が入ってしまうと、絶縁油の絶縁性能を低下させてしまうため、乾燥剤を入れることで、内部の湿度を制御し、絶縁性を保ちます。
湿気は絶縁性能の天敵です。
以上が変圧器の基本的な構造です。
変圧器にはコイル以外にも色々とあるんだね!
継続的に変圧を続けるためには、補器類も重要なものとなっています。
一次側と二次側の電圧を計算方法について
変圧器の一次側と二次側の電圧は、一次巻線と二次巻線の巻数比αによって計算することができます。
E₁(一次電圧)、E₂(二次電圧)、N₁(一次巻線の巻数)、N₂(二次巻線の巻数)とすると、巻数比と電圧には以下の関係があります。
$$\frac{E₁}{E₂}=\frac{N₁}{N₂}=α$$
なぜ、このような式が成り立つのか、一つ一つ解説していきます。
まず、変圧器は電磁誘導によって誘導起電力を二次側の巻線に発生させているコイルです。
そのため、二次側の誘導起電力はファラデーの法則により、二次巻線の巻数が多いほど、時間的な磁束の変化が大きいほど、誘導起電力が大きくなります。
このことから、Δφを磁束の変化量、Δtを磁束が変化する時の時間、fを周波数とする時、二次側の誘導起電力E₂を計算すると、
$$E₂=N₂\frac{Δφ}{Δt}=N₂\frac{φ}{\frac{1}{4f}}=4fN₂φ[V]$$
となります。これは、ある時間帯における磁束の変化の割合(平均)に巻数をかけているので、平均値という扱いになります。
一次側の起電力についても、一次側もコイルになっているため、ファラデーの法則により、同様の式が成り立ちます。
平均値ではなく、実際に発生する電圧を知りたい場合は、実効値を求める必要があります。
実効値とは、交流電圧や電流が実際に作用している時の数値のことで、直流と同じように取り扱いを楽にするためにも利用されています。
実効値と平均値については、以下で詳しく解説していますので、気になる方は参考にしてください。
実効値を求めるには、平均値×波形率で計算することができます。
波形率は、平均値がどれくらい実効値に近いかを表す数値(実効値と平均値の比率)で、正弦波形の場合は1.11です。
つまり、波形率が1に近い波形ほど、平均値=実効値に近いということであり、波形率が1より大きすぎるほど、平均値と実効値がかけ離れていることになります。
これを踏まえて計算をすると、E₂とE₁は以下の式で計算できます。
$$E₂=4fN₂φ×1.11=4.44fN₂φ[V]$$
$$E₁=4fN₁φ×1.11=4.44fN₁φ[V]$$
この式から、E₂とE₁の比率(変圧比)を求めると、
$$\frac{E₁}{E₂}=\frac{4.44fN₁φ}{4.44fN₂φ}=\frac{N₁}{N₂}$$
となり、変圧比を計算すると、最終的に巻数比となり、上記のような式になることがわかります。
この式は一次側、二次側の電圧を計算したり、巻数をいくら巻けばいいのかを知りたい時に頻繁に利用されています。
まとめ
・変圧器は電圧を変圧するもの
・変圧器は電磁誘導により変圧をしており、一次側と二次側の巻数の比率で電圧を調整できる
・一次側と二次側の巻数比(α)と電圧には以下の関係がある
$$\frac{E₁}{E₂}=\frac{N₁}{N₂}=α$$
以上、今回は変圧器の役割と仕組み、構造に関する内容でした。
変圧器はその仕組みと構造によって、私たちの日常生活や産業活動において不可欠な役割を担っています。
この記事が変圧器の基本を理解する手助けになれば幸いです。
また、以下の記事では電流を変換する変流器、変圧器を設置している施設などを解説しています。あわせて是非、読んで見てください。
変圧器ってどうして必要なの?そもそもどうゆう仕組みなんだろう?